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トピック

「旅する黒曜石」Vol.2 甲斐駒ケ岳に魅せられた金生遺跡の人びと

コラム
「旅する黒曜石」Vol.2 甲斐駒ケ岳に魅せられた金生遺跡の人びと


どうにも不思議な土偶が、山梨県北杜市の金生遺跡から見つかっている。大型で、体が空洞になった中空土偶である。まるで蛸のように口が前に突き出し、目も大きくてなんだか少し怖い気もする。研究者によれば、遮光器土偶の変り種、ということだが、失礼ながら私にはそうは見えない。

そんなちょっと変わった土偶を金生遺跡の人々は生み出したわけだが、この遺跡は、縄文時代後期から晩期に栄えた。少し縄文時代について知っている人なら「おや?」と思うかも知れない。最近の研究では、後期になると暮らす場所が変わって遺跡が発見しづらいだけだということだが、一般的には、中部高地に一番多く集落が作られたのは、縄文時代中期である。ところがこの遺跡は、その後に花開いた。



金生遺跡に立つと、いやおうにもバーンと目に飛び込んでくるのが甲斐駒ケ岳である。それだけではない。南には富士山が、北には八ヶ岳を望むことができる。もう、本当にその山並みは素晴らしい。彼らがこの場所を選んだ理由が、遺跡に立つとよくわかる。

北杜市の学芸員佐野隆さんによると、この遺跡は主に祭祀の場所として存在していたという。家も特徴的で、床に平たく割った石を敷き詰めた敷石住居や、家の周りにぐるっと石を置いた石組住居などが作られた。石を組んで作った棺のような場所からは、焼けた人骨片や耳飾などの装飾品も見つかっている。
こう聞くと、金生遺跡の人々は、かくも石が好きだったのかと思ってしまう。



石を使った住居は、縄文時代中期の終わりごろから山梨、長野、神奈川などで盛んに作られるようになるのだが、縄文人たちの意識の中に、大きな変化があったんじゃないかと私は思っている。石に対しての思考の変化、たとえば「普遍性」ということを意識しだしたんじゃないか。

ここには他にも石がゴロゴロしている。配石遺構という。中には大小さまざまな大きさの男性器を模した石棒もあるし、丸い石もある。とにかく石が好きなのだ。それも、何でもいい訳ではない。わざわざ5キロほど西に行った釜無川という川から白い石を選んで運んできていたりする。

ここまでくると、ただの石好きだったとは思えない。

その石に意味があり、また、その重たい石を皆で運ぶことに、なにか儀礼的な意味合いがあったのではないかと思いたくなる。もしかすると、金生の人々が取りに行ったのではなく、周辺の人々がこの石を持ってこの地にやってきたのかも知れない。たとえば、地域連帯の証として、石を持ってきて金生に置いた。ここは、金生に暮らした人々だけでなく、周辺の人々の祭祀の場でもあったと考えられるのだ。

縄文人のやることに、現代人の理屈など通らない。重いとか、面倒だとか、合理的に物事進めようとか、そういうことが当てはまらない。現実的な暮らしの中にはもちろんあったと思うが、遺跡に立ち、彼らが作り出した空間や出土物を見ると、現代人の理屈は通用しないと心底思う。その感覚は、自らの意識を揺さぶられるようで、その点も遺跡巡りの楽しさでもある。



そういえば、佐野さんが面白いことを言っていた。

「後期になると、土地というもの、つまり自分たちが暮らす場所に対して意識が変わってきます。先祖からの系譜をこの土地に残すために、石を使って、ひとつのモニュメントを作っていたのかもしれません」

これには驚いてしまった。私は縄文人たちには土地の所有という概念がないと思っていたからである。現代人が考える「所有」というのとは、厳密には違うと思う。しかし植物食料が豊かだった中期から時代が下り、自然環境の変化によって食料調達が不安定になる。そんなとき、「この場所は俺たちのものだから」という意識が芽生え、その場所にある植物食料はうちの集落のものだと強く意識しだしたのかも知れない。それをより強く意識し、周辺に暮らす人たちも含めて祭祀を行うことで、「この地で協力しながら生きていく」という思いを共有し、生き抜いたのではないか。そんなことをふと思った。



ところで、石好きの金生の人々にとって、黒曜石はどうだったのだろう。
佐野さんの話しによれば、ここから3,4日間歩けば黒曜石の採掘場まで行けるらしい。実際に原石も見つかっている。

「その道中、縄文人たちはよくわかっていて、一日行程で歩ける場所に、ちゃんと遺跡があるんですよ」

なんと、宿場町ならぬ、縄文集落がポツンポツンと作られていたのだ。
まるで砂漠の中のオアシスのようだ。さすがは、縄文人である。

● 遺跡情報



金生遺跡
住所:〒409-1502 山梨県北杜市大泉町谷戸105
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● 取材中に立ち寄りました!



北杜市考古資料館
住所:〒409-1502 山梨県北杜市大泉町谷戸2414
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トラットリア・タダリコ
大自然に囲まれたイタリアンレストラン、トラットリア・タダリコ。 採れたて新鮮な地元野菜をふんだんに使った色鮮やかなイタリアンが自慢。魚を使ったメニューも多く、山の中でも美味しいお魚が食べられると地元のお客さんからも好評だそうです。
住所:〒408-0003 山梨県北杜市高根町東井出634-1



文筆家 譽田亜紀子(こんだあきこ)。奈良県橿原市の観音寺本馬土偶との出会いをきっかけに、各地の遺跡、博物館を訪ね歩き、土偶の研究を重ねている。また、各地の文化財をわかりやすい言葉で伝える仕事を多く手がける。テレビやラジオに出演するかたわら、トークイベントに参加するなど文化財の魅力を発信し続けている。

著書に『はじめての土偶』(2014年/世界文化社)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年/世界文化社)、『ときめく縄文図鑑』(2016年/山と渓谷社)、『土偶のリアル』(2017年/山川出版社)、『知られざる縄文ライフ』(2017年/誠文堂新光社)、『土偶界へようこそ―縄文の美の宇宙』(2017年/山川出版社)、共著『おもしろ謎解き『縄文』のヒミツ』(2018年/小学館)、共著『折る土偶ちゃん』(2018年/朝日出版社)がある。
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