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トピック

「旅する黒曜石」Vol.1 黒曜石、津軽海峡を渡る

コラム
「旅する黒曜石」Vol.1 黒曜石、津軽海峡を渡る


博物館や資料館に足を運ぶと、まず私たちを出迎えてくれるものの多くが、石器だったりする。
「なんだよ、石器か・・・・・・。石器なんて見てもちっとも面白くないからな」と、一般の人は思う。考古学が好きな人でも、じっくりと観察しようという人は少ない。かくいう私もそのひとりである。
私は主に、縄文時代に粘土で作られた人形の焼物「土偶」を愛でることが多い。土偶の僕だとも思っている。何がいいかといえば、土偶には顔がある。顔があることで感情移入しやすく、遠い昔の作り手たち(縄文人)を感じさせてくれるのだ。
ところが、石器だとそうはならない。
と、思っていたのだが・・・・・・。

北海道の木古内町にある幸連5遺跡、今から約4500年前の竪穴住居から、長野県和田峠周辺の黒曜石で作られた鏃が2点見つかった。大きなほうで、長さがおよそ2.5センチ。その移動距離、直線にして650キロ。直線で長野から北海道に辿り着くなんて考えにくいから、場合によっては1000キロぐらいあるかも知れない。

その距離を鏃は旅をした。
もちろん、鏃が歩いていくわけはない。縄文人の手から手へとわたり移動したことになる。
なんということなのか!

まったく人が見えないと思っていた石器にも、人の温もりと思いが篭っていたなんて。それもただならぬ思いの強さだ。なんといっても、長野から北海道である。どれだけの人がこの鏃の旅に関わったのだろうか。まったく想像がつかない。

そこで私は、縄文人を引き付けて止まなかった黒曜石を追って、星降る中部高地と言われる長野、そして山梨を旅することにした。
そうすることで、少しでも縄文人たちに近づけるのではないか。そんな期待を胸に抱いて。



文筆家 譽田亜紀子(こんだあきこ)。奈良県橿原市の観音寺本馬土偶との出会いをきっかけに、各地の遺跡、博物館を訪ね歩き、土偶の研究を重ねている。また、各地の文化財をわかりやすい言葉で伝える仕事を多く手がける。テレビやラジオに出演するかたわら、トークイベントに参加するなど文化財の魅力を発信し続けている。

著書に『はじめての土偶』(2014年/世界文化社)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年/世界文化社)、『ときめく縄文図鑑』(2016年/山と渓谷社)、『土偶のリアル』(2017年/山川出版社)、『知られざる縄文ライフ』(2017年/誠文堂新光社)、『土偶界へようこそ―縄文の美の宇宙』(2017年/山川出版社)、共著『おもしろ謎解き『縄文』のヒミツ』(2018年/小学館)、共著『折る土偶ちゃん』(2018年/朝日出版社)がある。
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