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トピック

「旅する黒曜石」Vol.5 掌の中の宇宙 星糞峠へ<前編>

コラム
「旅する黒曜石」Vol.5 掌の中の宇宙 星糞峠へ<前編>


今回、どうしても訪れたかったのが黒曜石の原産地である。中でも星糞峠は、縄文時代好きに知らない人はいないと思われるほど、メジャーな原産地だ。

黒曜石は火山が生み出した天然のガラスである。うまく剥離させれば、包丁以上に切れ味のいいナイフになるし、鏃にもなった。特に、和田峠周辺の黒曜石は不純物が少なく、質がとても高い。だから、全国に100ケ所ほどある黒曜石の原産地の中でも、縄文人たちは特に長野産の黒曜石を欲しがった。北海道にも黒曜石の原産地はある。しかし、彼の地の人々は、普段目にしている漆黒の黒曜石ではなく、キラキラと光輝く長野県産の黒曜石の美しさに魅了されたのかもしれない。



ところで不思議に思う人もいるかもしれない。

「どうして長野県産の黒曜石とわかるの?」

実は、黒曜石は産地によって含まれる成分に違いが出る。その成分の違いを見ることで、どこからやってきたのかわかるのである。

幸運なことに、今回その分析に立ち会う機会に恵まれた。帝京大学文化財研究所で南アルプス市長田口遺跡から見つかった、黒曜石の原石鑑定が行われることになったのだ。この原石は山梨県の縄文遺跡の中では一番大きなものだという。研究所の金井さんと共に持ち込まれた四つの原石を鑑定。結果はというと、星ヶ塔あたりのものだと判明した。その結果にご満悦な南アルプス市学芸員の保阪太一さんの話によれば、前期まではいろんな場所の黒曜石を使っていたのが、中期後半から霧ヶ峰系の黒曜石ばかりを使うようになったのだという。つまり、この原石もその流れに見事一致したというわけだ。質の高さから「やっぱり、霧ヶ峰系だわ」と縄文人が判断したことになる。黒曜石を追うと、そんなことまでわかるのか。



このように近隣の縄文人のみならず、今のように交通機関が発達していない中でも広く行き渡った長野県産黒曜石の魅力とは、いったいなんだったのか。縄文人たちが惹かれて止まなかった秘密が知りたい。だから、どうしてもその場所に行きたかったのである。


● 遺跡情報



星糞峠黒曜石原産地遺跡
住所:〒386-0601 長野県小県郡長和町



星ヶ塔黒曜石原産地遺跡
住所:〒393-0002 長野県諏訪郡下諏訪町

● 取材中に立ち寄りました!



手打ちうどん ろくでなし
笛吹市の本格手打ちうどんのお店。吉田うどんに惚れ込んだ店主が注文ごとに麺を打つ姿も、臨場感たっぷりにガラスごしに見ることができる。肉うどんはこの地方ならではの馬肉で食べ応え十分。
住所:山梨県笛吹市石和町四日市場1819−1



文筆家 譽田亜紀子(こんだあきこ)。奈良県橿原市の観音寺本馬土偶との出会いをきっかけに、各地の遺跡、博物館を訪ね歩き、土偶の研究を重ねている。また、各地の文化財をわかりやすい言葉で伝える仕事を多く手がける。テレビやラジオに出演するかたわら、トークイベントに参加するなど文化財の魅力を発信し続けている。

著書に『はじめての土偶』(2014年/世界文化社)、『にっぽん全国土偶手帖』(2015年/世界文化社)、『ときめく縄文図鑑』(2016年/山と渓谷社)、『土偶のリアル』(2017年/山川出版社)、『知られざる縄文ライフ』(2017年/誠文堂新光社)、『土偶界へようこそ―縄文の美の宇宙』(2017年/山川出版社)、共著『おもしろ謎解き『縄文』のヒミツ』(2018年/小学館)、共著『折る土偶ちゃん』(2018年/朝日出版社)がある。
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